第7章〔追旨-1〕《呼吸にまつわる諸現象》
〔追旨1-1〕〈呼吸の生理と一般的現象〉
平常、私たちは何の意識もなく呼吸していますが、音楽と名が付くと途端に呼吸も一躍脚光を浴びて、いろいろな方法とともにさまざまな事がいわれ始めます。その中には‘ヨガや気’に関する呼吸法まで出てきます。
声楽では不随意筋の声帯をよりよく響かせるため、息によってコントロールしなければなりませんが、そのため不随意筋である横隔膜を支えとしなければなりません。いずれも不随意筋である器官が主たる制御の場所となるわけで、呼吸法の研究も進んでいるようです。しかし私は声楽での呼吸法を知りませんので、本書ではとりあえず例外としておきます。
管楽器で盛んにいわれる呼吸法も、私が考える範囲ではそれほど難しい事ではなく、また難しく考える必要もないでしょう。その証拠に、スポーツ選手は習わずして腹式呼吸を身に付けます。彼らが呼吸法を勉強した、などという話しは聞いたことがありません。
管楽器においても全く同じ理由で、腹式呼吸させることは極めて簡単であって、特別な訓練などほとんど不用なのです。では楽器を持つと、なぜ腹式呼吸ができなくなってしまうのでしょうか。それは腹式呼吸できない方法で練習する、あるいは訓練させられるからです。呼吸の生理的なリズム、すなわち“自然な呼吸をする妨げになるものを取り去ってやれば自然に身に付く”のです。なぜなら“呼吸は普段の出来事”で、それはごく自然な生理機能だからです。これからその事について述べてまいります。
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*妙薬56=音楽は自然だ
私は音楽上の疑問も、〜
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呼吸法の難しさは息を吸うことではなく、表現に必要な(弦楽器などのボーイングにあたる)吐く息のコントロールにあります。そのコントロールと呼ばれる‘息遣い(呼気)’と‘吸う’ことの間に、お互い大きな関連があります。本文ではリズムのタイミング云々、日本人云々と述べ、呼吸と直接関係づけては書きませんでしたが、息遣いの一部も含めて一応は分析したことになります。
‘声楽やヨガ、気’の呼吸法を除けば、呼吸法が騒がれるのは管楽器と妊産婦くらいなものだと思いますが、改めて呼吸と考えると、私たちの日常生活の中では、あたかも腹式呼吸をしていないかのような錯覚に陥ります。事実、私が学生だった頃と同じような迷信と、不自然な方法論に惑わされながら練習している姿を未だにみかけます。時代が変わっても、音楽に抱く気持ちと方法は変わっていないことが判ります。どうしてそのような非生理学的なことが流布されて、まかり通る事になるのでしょうか。それは自覚のできない、見えない筋肉の使い方のため、教える手立てと教わる手立てがたいへん少ないということがあります。そのため‘腹式呼吸という暗示をかけてできるのを待つ’ということになります。
----------------脚注63----------------
私からみると非人間的で〜
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さらに悪い(母音処理に代表される)習慣を背負ってしまった者に呼吸法だけを教えても即効性は皆無です。それは息遣いとなる音楽的センスが‘よくも悪くも’絡んでくるからです。〈→追旨3=表現の障害〉〈→3章3節=西洋音楽信仰〉他。すなわちよい息遣い(呼気)は、素直に演奏する習慣と素直なセンスを身に付ける元になります。そして反対に、悪い息遣いからは悪いセンスの下地を作る原因を生むことになり、生涯その上塗りをしていくことになります。したがって、西洋音楽の表現方法と息遣いを理解しなければ、よい呼吸法は生み難いということになります。
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*妙薬57=器楽の呼吸法訓練の迷信
「ヨガ」や「気」の呼吸法、その極致〜
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まず呼吸の現象について観察してみましょう。安静にしている時の呼吸を計ってみると、男性で大体200cc前後、女性は150ccくらいでしょうか。150~200ccというと牛乳パック一個弱程度ですが、普通はその程度の呼吸でしかありません。
そして言葉の一センテンスの長さは大体世界共通に、平均2.7秒くらいだったと記憶しています。そして安静時の呼吸数は一分間に20回前後でしょう。
最近の子供たちは自然の中で遊ぶことをしませんし、表で遊ぶこともしません。‘いじめ’はあるけど乱暴者はいません。勉強かコンピュータゲームに明け暮れ、一日中安静に過ごしています。それなのに楽器を吹く時に、何でいきなり大量の息を吸ったり吐いたり、長く吐き続きさせたりできるのか、ということに、先ず疑問を感じなければなりません。私たちは(水泳以外)意識的に息をコントロールした経験など一度もないのです。もしスポーツで同じようなことをやったとしたらたいへんなことになるでしょう。スポーツでは基礎体力作りから始め、フォームを作り、選手になるまで半年、一年とたっぷりと時間をかけています。
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私たちが腹式呼吸をしているのはどういう時かというと、
1.寝ていたり、椅子に座って安静にしている時。
2.慎重に作業をしている時、などです。例を挙げると、
a).針に糸を通す時。
b).カメラを構えている時。シャッターを切る時。
c).包丁を握っている時。
d).精神を集中して何かに取り組んでいる時。
e).スタートを待っている時、走り始めた時、等。
一方、胸式呼吸になる時は驚いた時とか、スポーツや重労働など、体を動かし、体が大きな酸素を必要とした時です。激しい運動では腹式の呼吸では追いつかず、胸を開くことになります。また驚いたときに胸で呼吸をしてしまうと、体が硬直して動きがとれなくなります。そして呼吸は性格と大きな関係があります。積極的で行動的な人とおとなしい人を比べると、一日の呼吸の量は大きく違います。早足で歩くだけでもすぐに数倍の量になるでしょう。大きな声で話しても、よく笑っても、深く呼吸する経験も増えますし、同時に腹筋も鍛えられます。この積極性が管楽器に限らず、音楽には必要なのです。(管楽器の演奏に必要なのは、肺機能の内の‘何か’と関係があるとは思いますが、肺活量と直接関係しているとは思いません。)
私たちが通常行っている安静時の呼吸は100%腹式呼吸です。女性が胸式呼吸で男性が腹式呼吸だといわれる事がありますが、お互い異性の事は判り難いものです。多分‘そうだろう’という気持ちで納得しているだけなのではないでしょうか。安静時に胸式呼吸の女性を千人に一人くらいみかけることがありますが、これはたいへん特殊な事情を持っている人とみなしてよいでしょう。呼吸方法と表現力の差は、性格と積極性と運動量、それらの過去の経験と大きく関係しています。運動してすぐに息切れを起こして胸に手をあてるような仕草をする人は、鑑賞者には適していても、積極的な西洋音楽を演奏表現する事には向いているとはいえず、管楽器では音を出すことにも苦労を伴うかもしれません。
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*妙薬58=無理なく取れる息の〜
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*妙薬59=鼻の神経は〜す。
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生理的にか、心理的にかは判りませんが、肺機能検査を受けている人や喘息患者をみると、人間は吸気より‘呼気’が上手くいかないという現象が観察されます。述べたように性格と息の使い方は大きく関係していますが、生徒たちを長い間観察してみると大体女性で80%、男性でも約半数もの生徒たちが、吐くことに対して抵抗を示す事が観察できます。おとなしい人、また消極的な人たちの多くは、長い間の訓練にもかかわらず、どこかで制御(防衛)してしまう現象があります。
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補説33=もし弦楽器やピアノの〜
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呼吸は普段のでき事なのですが、複式呼吸ができない理由の主たる原因は、これまでに述べてきた言葉と習慣によるもので、発音やリズムのタイミングなどの問題が根底で大きく関係しています。そしてそれを介して日本人の習慣、楽器の関係、性格、センス、音楽にまつわる言い伝えや迷信、そして心理や音楽の諸現象が複雑に絡んできます。以下にまとめてみます。
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*妙薬60=呼吸法の秘訣
‘呼気’がうまくいかない、あるい〜
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〔追旨1-2〕〈体のタイミングと呼吸の相関関係〉
上記妙薬の解説を含め、ここでこれまで詳しく述べられなかったいくつかの例を具体的に挙げてみましょう。
腹式呼吸がなぜできないかという原因を挙げますが、下記1~2は独立して考えられる事ではないので、以下にまとめて分析いたします。3は〈追旨1-3=息が足りないという現象〉の項で述べることにします。
1) 楽器を演奏する際の問題点は、私たちのさまざまな習慣が、西洋楽器と西洋音楽の表現方法に合わない事が最大の原因。(間違った音楽の認識を生むことになる。)
2) 呼吸の機能の認識不足から生まれる方向違いの考え方。
a).呼吸は、吐ければ吸えるという、呼吸のメカニズムが理解されてないこと。
b).演奏の際の強い呼気からのブレスは、呼気のリズムの反動とタイミングが必要である。
3) a).フレーズを長くとりすぎて呼吸が足りなくなる。
b).細く吐き過ぎて息が余って呼吸困難になっている人。
その他の要因として「音に神経をとられる」「音自体を聞き分けられない」「力んだことで音が出たと錯覚する」など、自分自身を観察不能に陥れてしまうさまざまな要素があるなど、本文で述べたほぼ全てのことが関係しています。
私たちの体は、胸を開くと胸式呼吸になるようにできています。反対にいうと、胸式呼吸は胸を開く運動が加わることです。そして呼吸というのは、どちらか一方(吸う、吐く)の方法が崩れると、必ず胸式呼吸になってしまいます。そして呼吸法というと吸うことをイメージして、吸うことだけに目を向けますが、ブレス(吸うこと)が大切なのではなく、まずうまく吐くことが大切なのです。つまり呼吸機能は、上手く吐かなければ上手く吸えないようにできている、ということを認識すべきです。
そしてそのブレスはその吐き方に関係しているわけですが、その吐き方、すなわち発音と発音のタイミングの問題は本文で述べてきた通りですが、今一度簡単にふれてみます。
『音楽意識』は高くなければなりません。しかし西洋音楽に対するイメージが違っていた場合には、フレーズの表現とブレスは相互関係にありますから、ブレスにまで影響を及ぼすことになります。そしてそれが『音楽表現の習慣の差』となって大きく表現されることになります。すなわち邦楽の発音はリズムが曖昧で、曲全体に周期性が少なく、任意な間をとり、そして喉をつめた発声といい回しをします。そのため西洋音楽に対しても、長い間われわれが培ってきた習慣やセンスを当てはめることになります。
ブレスの一般的な関係は、明確な発音、明確なリズム、明るい感情からはタイミングのよい素早いブレスが可能となりますが、語頭を細めて切なさを表現すれば切ない終り方になり、切なさを感じさせるブレスになります。反対に濃厚ないい回しの表現からは、その反動でタイミングが遅れ、再び押し殺したような濃厚な発音になってしまいます。(そこから明るい表現に転じることは人間の生理や心理として、当然難しいことになるでしょう。)
それらの‘押し殺した発音’や‘細めた発音’‘濃厚ないい回し’ ‘切ない’などと例えた演奏は、もちろん、われわれには意識がありませんが、そういった方法で表現をしているにもかかわらず、西洋音楽、西洋の楽器に対処せざるを得ません。すなわち生体のリズムやタイミングを狂わしていても、時間に厳格な西洋音楽は待ってくれませんので、時間内に息を取らなければ、という体の欲求と潜在的使命感にかられます。〈→3章5節=判断基準のまとめ〉 勢い胸を開くよりほか、手立てがなくなるわけです。
言い方を変えましょう。つまり語尾を細めると、細めた語尾は時間的に曖昧になるために曖昧なブレスになります。また、その時既にリズムを超過している場合がほとんどであるため、体と音のタイミングがずれてきます。タイミングがずれれば胸式に、〈→4章序節~3節〉〈→2章4節=母音文化〉同じく曖昧なブレスは、腹の準備不足から胸式呼吸となってしまいます。つまりブレスのリズムも狂っているのです。〈→1章=リズムを定義する〉 ブレスは吐く反動でとるため、タイミングが狂った体では腹で呼吸することは困難です。ブレスにはブレスのための準備、すなわちブレスのための音の切り方(処理の方法)があるわけです。特にブレスには厳格なリズムの観念が必要なのです。
----脚注-------------------------------------------
但しブレスの〜
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西洋音楽はすべて準備と行動という関係で成り立っています。そして準備と行動は音から音、音からブレスへ、ブレスから音へと同時に進行しているのです。演奏に障害を持っている者は必ずこの関係が崩れています。
ブレスはスピード感や力の関係が、音の語尾=ブレス=立ち上がり、と同じ関係を結べることが大切なのです。そして音とブレスの間に相互作用があることを、私は『ブレスの相関関係』と呼んでいます。その関係を表にしてみると。
下の表の上段の隣り合う関係は(フレーズ語尾、ブレス、表現)は下段の全てに関係している。そして上段(フレーズ語尾、ブレス、表現)三つの関係も相関関係にあり、ブレスや音楽の設定は事前(直前)には、(正しい西洋音楽に)既に定まっていなければ関係が保てないことになる。
表➡
これらの呼吸にまつわる因果関係が理解されないまま、呼吸法のみ取り沙汰されるために「呼吸法」という言葉だけが一人歩きし、認識不足の迷信的な方向違いの考え方を生み出してしまう事になります。
〔追旨1-3〕〈息が足りないという現象〉
前述の 3-a).フレーズを長くとりすぎて呼吸が足りなくなる。
b).細く吐き過ぎて息が余って呼吸困難になっている人。「両者とも息が足りない」と言い、よく似た現象を生みます。
息が足りなくなる現象として、3-a).を分析すると〈→追旨2-4b=間違った経験による色彩感覚〉
a-1.西洋音楽がわれわれの音楽の習慣にないためにフレージングが理解できない。〈→追旨2-7a=記憶と経験・b語法とセンス〉
a-2.同じく初歩的な問題として、フレーズの継目は簡単に判別できますが、長いフレーズになると一息で吹き続けることは当然困難が伴います。そのためどこかで一、二度ブレスをすることになりますが、そのブレスの場所を探すことができません。文章でいえば点(、)の場所を探せないということですが、初心者においてはフレーズ最後までブレスしてはいけないと思う間違いがあります。その結果、無理が無理を呼び、反対にいい加減なフレーズ感と無理な奏法が身についてしまう場合が多いものです。
またブレスの中心〈→4章序節a〉を過ぎるほど、反動で胸式呼吸になりやすい。息のよく吐ける楽器、低音楽器群も要注意です。
ブレスは最も大切な表現手段である事を、指導者が最も注意して教える必要があります。
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*妙薬61=息を長続きさせる訓練の迷信
吹奏楽の団体などの悪習として呼吸は〜
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*妙薬62=外国人演奏家が「フレーズを〜
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*習慣=これまでに述べてきた言語に関係する音楽習慣や熟練度。
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補説34=私たちがお喋りをする時〜
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ついでに述べますが、ロングトーンの迷信もあります。持続音の途中の音や息の判断はとても難しいものです。息の出やすい楽器では、方法によっては効果を期待できるかもしれませんが、息の出難い楽器では呼吸を手始めに、さまざまな害につながっていくことになります。有効な楽器と有効な人があるだけの話しで、全楽器と全員に通じることではないでしょう。単純な方法ほど難しいものです。はっきりとした目的意識を持って行うべきです。〈→妙薬61/63〉
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*妙薬63=ロングトーンの迷信
無意識に出すロングトーンや〜
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よい方法で演奏する事とは、“いかに早く心地好い息が吐けるか”ということにあり、その心地よい息から“いかに自然な音が出せるか”が上達のポイントで、よい音とか、汚い音とかの一般的な音の色彩感覚は二義的な問題です。
b)の細く吐き過ぎて息が余って呼吸困難になっている人。
の場合は、口が閉まっています。消極的、体力不足、西洋音楽の認識不足からくることが多く、特にクラリネットに多く、サキソホーンにも見受けられます。この楽器の人で「息が足りなくて苦しい」と訴える人の殆どは、逆に息が余って呼吸困難になっている事が非常に多いものです。体力、積極性に恵まれて力任せに吹く人と、反対に、肺活量の少ない人にも多く見られる現象です。
音の特徴として音程が高い事と、細々とした頼りのない音の人、また濃厚な音の人などが要注意です。これらの問題はいかにも管楽器だけに通じるように思われるでしょうが、音楽は言葉の感覚で行っているので、述べたように呼吸の吸う吐くとは‘相関関係’にあり、その相関関係が音と表現に敏感に跳ね返るのですから、息と関係のない楽器にも同じ現象が表れるのです。しかしその原因を誰も“呼吸や発音のタイミング”とは思っていないのです。
潜在意識の中で行われるこの複雑な呼吸も、本文で述べた高次構造がもたらす問題点と考え、第一次、第二次構造を理解し正しく実践することで、問題のほとんどは解決の方向に向かうはずです。
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*妙薬56=音楽は自然だ
私は音楽上の疑問も、どのようにとらえるのが“自然だろう”という視点から出発し、決して音楽的視点からは眺めないように心がけていますが、今では音楽のための特別な方法は“無い”と、確信をもっていうことができます。それは後ろ向きで走る競技がないことと同じ理由です。同じく音楽の基本訓練と音楽表現において特殊な方法でなければできないことなどあり得ません。(現代音楽を省く)
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----------------脚注63----------------
私からみると非人間的で不自然極まりない方法が一般的に行われ、専門家までがそれに荷担していることがあるという事実です。残念ながら誹謗になるので具体例はだせません。
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*妙薬57=器楽の呼吸法訓練の迷信
「ヨガ」や「気」の呼吸法、その極致は「寝かせた生徒の腹の上に乗って歩く」…、など特殊な訓練は一切必要ない。肉体労働のときでもわたしたちは腹式呼吸をしているからです。
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*妙薬58=無理なく取れる息の範囲内で、ブレスに計画性を持たせ、余分な息を取らないことが、上達の一つの道でもあります。
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*妙薬59=鼻の神経は横隔膜につながり、口の神経は肺の器官とつながっているということです。鼻、口同時に呼吸を行う訓練をすることも要点の一つでもあります。
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補説33=もし弦楽器やピアノのように演奏に直接呼吸が作用しない楽器の人たちが、曲の持っている律動とは別の、不自然な呼吸方法で表現し、〈→1章3節=リズムの発生〉それで上手と感じさせられれば、それは別種の音楽になってしまうかもしれませんし、その前に人間の機能と心理を無視したちぐはぐな事態によって、上達から見放されることになってくるはずです。当然管楽器では初歩的な段階から直接的な影響を被ることになります。
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*妙薬60=呼吸法の秘訣
‘呼気’がうまくいかない、あるいは呼吸がうまくいかないという現象は、西洋音楽に日本の言葉と音楽による習慣を当てはめようとするところにある。
↓*.腹の俊敏性に欠ける。 →強弱アクセントが無い。 言葉
↓*.腹の溜がない。 →子音が弱い。 言葉
↓*.子音の出が遅く細い。 →主張の無さ。 言葉
↓*.母音が遅れる。母音を押す。 日本的情緒と言葉
↓*.打合点がとれない。 →母音処理。 日本的情緒と言葉
↓*.語尾が細く、余韻を残すような処理をする日本的情緒と文法
↓*.リズムを崩す。 日本的情緒と言葉
↓*.体が打合点過ぎてブレスをする。
→自然の生理ではない。 日本的情緒と言葉
→*腹式呼吸が出来ないだけではなく、それ以前に西洋音楽になっていない。
上記は胸式呼吸の要因であるが、問題が解決できれば腹式呼吸はいとも簡単である。
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但しブレスの時間的観念は体感上の厳格なリズムである。
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*妙薬61=息を長続きさせる訓練の迷信
吹奏楽の団体などの悪習として呼吸は長続きした方がよい、という迷信をそのまま鵜のみにし、細々とした息で音を続かせる訓練をしている光景をみかけますが、初心者や音楽表現に問題が残されている者、そして特にリード楽器においては「百害あって一利なし」ということを肝に命じるべきでしょう。
反対にブレスの取れる場所が無い場合には、音楽表現に差し障りのない場所を休符にするなど、音楽的理想は別にして、無理なく演奏できる助言をすべきです。無理な方法で演奏して、よい音程、よい音、音楽的な演奏ができるはずがありません。ブレスと音の関係を間違うと上達の大きな足かせとなります。
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*妙薬62=外国人演奏家が「フレーズを切るべきではない。」または「フレーズを長くしなさい。」「息を長続きするように訓練しなさい。」などと要求するときがありますが、これらを鵜呑みにするのは論外です。なぜなら彼らの方法や習慣(体力)が違うからで、私たちはその前に解決させなければならない課題が山積みなのです。
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*習慣=これまでに述べてきた言語に関係する音楽習慣や熟練度。
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補説34=私たちがお喋りをする時、思い切り息を吸って、息が続く限り喋りはしません。音楽はその感情を出す方法が少し情熱的な分、一息での表現が長くなったり短くなったりしますが、それも人間生活の中の人間の機能の範囲においてのでき事です。
ブレスを取るか取らないかということは、いかに聴衆に対して心理的に語りかけるかという、音楽的にも技術的にもたいへん高度で芸術的要求でもあるのです。ブレスは説得力ある音楽表現の場所であることを認識し、ブレスを取ることの大切さを考えなければなりません。専門家ほど難しい方法を避け、最も演奏し易く、かつ効果的な方法で演奏しているはずです。息と音の関係の判らない初心者に、いきなり曲芸や理想をいうことは適切なアドバイスとはいえません。吐く息をコントロールすることに楽器の難しさがあるのです。
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*妙薬63=ロングトーンの迷信
無意識に出すロングトーンや口慣らしと称する練習も、日本語の習慣で行い、日本的発音を知らずに身につける訓練をしていることになります。〈→6章1節=演奏に階層構造があった!〉〈→追旨2-5=TuとDu〉
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